『吉行淳之介――抽象の閃き』

加藤 宗哉 著

 

 

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昭和のダンディズム、
なまなましい生理の結晶と
澄みわたる文体の魅力

 吉行淳之介(1924-94)は、新宿赤線地帯の娼婦を題材にした作品群で登場し、1970年代以降一世を風靡するごとく注目された作家である。現代の侍にたとえられ、ストイックな芸術家、女好きの女嫌いなどと評され、その文学は人工的な冷やかさを持ち、虚無と抽象性、研ぎ澄まされた感覚にみちている、と評された。だが、その作品の魅力の全体像を探りながら論じたものはこれまでにない。本書は主要な作品の生成をたどりながら、あらたなる吉行文学の本質 ―― 「現実から非現実への飛翔」「心理ではなく生理のメカニズムの抽象化」「繰り返された改稿の果てにたどりついた文体の美」等を論じた意欲作である。〝女〟や〝性〟を書いた作家ではない、という言葉の先に見える吉行の文学世界が新鮮に輝く。